みなさんこんにちは!
今回はMrs. GREEN APPLEの『ライラック』の歌詞を考察していきたいと思います。
この曲はアニメ『忘却バッテリー』のOPテーマでありながら、その肩書きを超えて広く愛されている曲です。
その人気を伝えるのは大いに容易く、2024年の第66回日本レコード大賞を受賞していて、YouTubeのMV再生回数は1.4億回を超えています。
では、そんな今を彩る一曲である『ライラック』の歌詞にはどのような意味があるのでしょうか?
メジャーで開かれた人気ソングの中に眠る、果てしなく深いメッセージを掘り起こしていきましょう!
1.『ライラック』歌詞
過ぎてゆくんだ今日も
この寿命の通りに
限りある数字が減るように
美しい数字が増えるように
思い出の宝庫
古いものは棚の奥に
埃を被っているのに
誇りが光って見えるように
されど
By my side
不安 喝采 連帯
濁ったりの安全地帯
グワングワンになる朝方の倦怠感
三番ホーム準急電車
青に似た
すっぱい春とライラック
君を待つよここでね
痛みだす人生単位の傷も
愛おしく思いたい
探す宛ても無いのに
忘れてしまう僕らは
何を経て何を得て
大人になってゆくんだろう
一回だけのチャンスを
見送ってしまう事が無いように
いつでも踵を浮かしていたい
だけども難しいように
主人公の候補くらいに
自分を思っていたのに
名前も無い役のような
スピンオフも作れないよな
たかが
By my side
くだらない愛を歌う際
嘘つきにはなりたくない
ワサワサする胸
朝方の疎ましさ
ズラして乗る急行電車
影が痛い
価値なんか無い
僕だけが独りのような
夜が嫌い
君が嫌い
優しくなれない僕です
光が痛い
希望なんか嫌い
僕だけ置いてけぼりのような
夜が嫌い
一人が怖い
我儘が拗れた美徳
不完全な思いも
如何せん大事にしたくて
不安だらけの日々でも
愛してみる
感じた事のない
クソみたいな敗北感も
どれもこれもが
僕を突き動かしてる
鼓動が揺らすこの大地とハイタッチ
全て懸けたあの夏も
色褪せはしない 忘れられないな
今日を生きる為に。
探す宛ても無いのに
失くしてしまう僕らは
何のために誰のために
傷を増やしてゆくんだろう
雨が降るその後に
緑が育つように
意味のない事は無いと信じて進もうか
答えがない事ばかり
だからこそ愛そうとも
あの頃の青を覚えていようぜ
苦味が重なっても
光ってる
割に合わない疵も
認めてあげようぜ
僕は僕自身を愛してる
愛せてる。
2.『ライラック』歌詞考察
2-1.限られた命を美しい思い出で彩ろう
過ぎてゆくんだ今日も
この寿命の通りに
限りある数字が減るように
美しい数字が増えるように
時間は誰にも等しく、寿命に向かって確実に進んでいく様子が語られています。
「限りある数字=命の時間」が減っていく一方で、「美しい数字=思い出や経験、幸せ」といった価値あるものを増やしていきたい、そんな希望もにじむ冒頭です。
儚さと前向きさが共存していますね。
2-2.思い出を辿ることで温まる心
思い出の宝庫
古いものは棚の奥に
埃を被っているのに
誇りが光って見えるように
忘れ去られたような思い出(棚の奥の埃まみれの品)でも、それらは自分にとって誇らしい記憶であり、心の中では輝いて見えるという対比がなされています。
過去に価値を見出す視点が温かく、懐かしさを感じさせます。
2-3.思春期のモヤモヤとした感情
されど
By my side
不安 喝采 連帯
濁ったりの安全地帯
グワングワンになる朝方の倦怠感
三番ホーム準急電車
一緒にいる存在(By my side)との関係性が描かれています。
「不安」や「喝采」「連帯」といった感情が交錯し、安定しているはずの“安全地帯”も濁って見える。
「グワングワン」は揺れ動く心や頭の重さを電車に喩えていて、そして日常の象徴としての「三番ホーム準急電車」が描かれ、思春期特有のモヤモヤとした日常のリアルが伝わります。
2-4.青春の甘さと酸っぱさ、全てを愛したい
青に似た
すっぱい春とライラック
君を待つよここでね
痛みだす人生単位の傷も
愛おしく思いたい
春という季節の中の、青春のような「青」、甘酸っぱさや苦さが入り混じる「すっぱい春」、そして「ライラック」という春の花の象徴が並べられています。
青春のモヤモヤとした感情を抱えながら過ごす輝かしい日常をうまく表現した部分になっています。
「君を待つ」という純粋な思いと、そこで得られる「人生単位の傷」すらも受け入れ、愛おしく思いたいという感情が複雑に交錯しています。
2-5.得ては失う中で最後に何が残るのか
探す宛ても無いのに
忘れてしまう僕らは
何を経て何を得て
大人になってゆくんだろう
ここでは、忙しない人生の転換期とも言える学生の日々を過ごし、色々な感情を経ては色々な感情を忘れていく現実に対する疑問が投げかけられています。
「何を経て、何を得て」という問いは、大人になる過程での葛藤や不安、意味を見出したいという内面での葛藤や模索が表されていますね。
2-6.「やりたいこと」に素直になれない自分
一回だけのチャンスを
見送ってしまう事が無いように
いつでも踵を浮かしていたい
だけども難しいように
「一回だけのチャンス」は人生の分岐点とも言える重要な瞬間。
常に準備していたい(踵を浮かす=走り出す体勢)という意志はあるものの、色々な不安や悩みが浮かんで消えていく中で、それを実行するのは難しい…。
理想と現実のジレンマを素直に表現しています。
2-7.自分は本当に「主人公」なのか?
主人公の候補くらいに
自分を思っていたのに
名前も無い役のような
スピンオフも作れないよな
中学生時代まででしょうか…。
かつては自分も「物語の主人公」になれると思っていたが、今や物語の背景にいるような存在。
しかもその物語の“スピンオフ”すら与えられないような無名さ。
思春期に起き始める自己評価の変化を経て気づいてしまう、現実と理想のギャップが切なく描かれています。
2-8.愛には素直でいたい
たかが
By my side
くだらない愛を歌う際
嘘つきにはなりたくない
ワサワサする胸
朝方の疎ましさ
ズラして乗る急行電車
「たかが」と言いつつ、側にいる存在への思いや、愛を語ることの重さがにじみます。
色々な不安や悩みが芽生えてきたとしても、自分の愛には素直でいたいという感情が読み取れます。
だからこそ、愛や友情を交わすことに慎重になりすぎてしまっているのかもしれません。
「ワサワサする胸」は不安や恋しさなど複雑な感情の高まり、「疎ましさ」は日常の疲れや孤独の感情。
「ズラして乗る」は、自らの愛や友情を安物にしないためか、あえて人との関わりを避けているような距離感も感じられます。
2-9.理想と現実の矛盾を生きることで生じる闇(病み)
影が痛い
価値なんか無い
僕だけが独りのような
夜が嫌い
君が嫌い
優しくなれない僕です
光が痛い
希望なんか嫌い
僕だけ置いてけぼりのような
夜が嫌い
一人が怖い
我儘が拗れた美徳
他と比べても非常に内省的で、自分の奥深くで蓋をしている不安と向き合っている部分になっています。
自己否定や孤独、対人関係の難しさが強く現れています。
「影」や「光」が痛いと感じるほど心が敏感で傷ついている状態、希望すら嫌いになるほどの心の闇。
けれどもそれが「我儘が拗れた美徳」という表現で、もはや自分の一部として受け入れようとしています。
この「我儘が拗れる」というのは、自分が掲げる高尚で理想に近い自分像や愛、貞操観念のようなものを「我儘」としていて、それが現実とは異なることに気づいていながらも盲信し、打ちひしがれるその過程を「拗れる」と表現しているのでしょう。
2-10.負の感情をも抱きしめたいという成長
不完全な思いも
如何せん大事にしたくて
不安だらけの日々でも
愛してみる
感じた事のない
クソみたいな敗北感も
どれもこれもが
僕を突き動かしてる
2-9で怒涛の連発をされた負の感情を「不完全な思い」としていて、それを受け入れた上で完全でなくてもいい、不安があっても愛したいという信念が表れています。
「クソみたいな敗北感」も、自分を突き動かす原動力になる。
色々なものに打ちひしがれていく中で、ネガティブな感情すら前向きな糧に変えようとする姿勢が、自分との向き合い方として確立された瞬間とも言えるでしょう。
2-11.全てをかけたあの夏
鼓動が揺らすこの大地とハイタッチ
全て懸けたあの夏も
色褪せはしない 忘れられないな
今日を生きる為に。
「良い思い出」だけに目を向けていた今までとは違い、「苦い思い出」をも抱きしめてあげることを決意した主人公から見える世界は一気に広がります。
良し悪し、善悪を捨て去り、全てを受け止めようとする主人公からの視点からは、全てが等しく映り、果てしなく広がっています。
それは例えれば、この世界に広がる「大地」そのものです。
「全て懸けたあの夏」は青春や情熱を象徴し、それが「今日を生きる」ための力になっている。
過去の記憶が現在を支えているという強いメッセージです。
2-12.いつ誰の役に立つかもわからない「傷」
探す宛ても無いのに
失くしてしまう僕らは
何のために誰のために
傷を増やしてゆくんだろう
目的もなくさまよいながら、それでも傷ついてしまう人間の儚さ。
「誰のために」という問いは、自分を見失いそうになる時の心の叫びのようでもあります。
無意味に思える苦しみの意味を問いかけています。
2-13.「傷」は人生を彩る恵みの雨
雨が降るその後に
緑が育つように
意味のない事は無いと信じて進もうか
答えがない事ばかり
だからこそ愛そうとも
苦しみの後に成長や希望が生まれるように、どんな出来事にも意味があると信じて生きていこうとする前向きな決意が表れています。
「答えがないからこそ愛そう」というフレーズは、人間関係や人生そのものの全てを受け入れようとする広い視野や包容力を持った哲学とも言えます。
2-14.良いも悪いも全てが美しい青春に習う生き方のヒント
あの頃の青を覚えていようぜ
苦味が重なっても
光ってる
「あの頃の青」は青春や純粋な気持ちや理想と現実の狭間での葛藤の象徴です。
苦い経験を重ねても、それがかえってその記憶を輝かせているという回顧と肯定。
過去を美しく記憶することの強さが感じられます。
2-15.自分を愛することで、全てを受け入れる
割に合わない疵も
認めてあげようぜ
僕は僕自身を愛してる
愛せてる。
人生には「割に合わない」苦しみや傷もあるけれど、それも自分の一部として認めて受け入れようというメッセージ。
そして最後に「自分自身を愛してる」と明言することで、深い自己肯定に至る旅が締めくくられます。
紆余曲折はありましたが、全てを肯定し、受け入れてあげることができるようになるまでの一種の悟りへの道だったことが、最後のフレーズでわかりますね。
3.まとめ
いかがでしたか?
『ライラック』はポップなサウンドから、それが持つ深いメッセージが軽視されがちかもしれませんが、掘っていけばいくほど深みが増していくフレーズが沢山散りばめられています。
「良いもの」ばかりに目を向ける理想主義的な生き方をしていれば、現実とのギャップに打ちのめされてしまうだけでしょう。
自分が傷ついてしまう「悪いこと」を受け入れることで、すべてに良し悪しや善悪がなく、フラットに世界を見つめることができるでしょう。
生まれたての赤子が右も左もわからないように、右も左も善も悪も捨てた原点に立ち返ることこそが、自分を満足させ、愛してあげられる生き方なのかもしれませんね。