5月2日(金)にリリースされたMrs. GREEN APPLEの新曲「天国」
この曲は4月25日に公開された、ミセスのボーカル大森元貴さんが主演を務める映画『#真相をお話しします』の主題歌としても起用されています。
もしも
僕だけの世界ならば そう
誰かを恨むことなんて
知らないで済んだのに どうしても
どうしても
貴方の事が許せない
夜は ただ永い
人は 捨てきれない
見苦しいね
この期に及んで 尚
朝日に心動いてる
抱きしめてしまったら
もう最期
信じてしまった私の白さを憎むの
あなたを好きでいたあの日々が何よりも
大切で愛しくて痛くて惨め
もしも
あの頃、お日様を浴びた布団に
包まる健気な君が
そのままで居てくれれば
どれほど
どれほど良かったのか
もう知る由(よし)もない
あぁ またお花を摘んで
手と手を合わせて
もうすぐ其方(そちら)に往くからね
心に蛆(うじ)が湧いても
まだ香りはしている
あの日の温もりを
醜く愛してる
どうすればいい?
ただ、ともすれば もう
醜悪(しゅうあく)な汚染の一部
なら、どうすればいい?
いっそ忘れちゃえばいい?
そうだ 家に帰ってキスしよう
どうすればいい?を
どうすればいい?
腐ってしまうこの身を
飾ってください
私のことだけは忘れないで
抱きしめてしまったら
もう最期
信じてしまった私の白さを憎むの
あなたを好きでいたあの日々が何よりも
大切で愛しくて痛くて惨め
あぁ またお花を摘んで
手と手を合わせて
もうすぐ其方(そちら)に往くからね
心に蛆(うじ)が湧いても
まだ香りはしている
あの日の温もりを
醜く愛してる
あぁ 天使の笑い声で
今日も生かされている
もうすぐ此方(こちら)に来る頃ね
あの頃のままの君に
また出会えたとして
今度はちゃんと手を握るからね
2.『天国』歌詞考察
2-1.人を恨むことで芽生える「黒さ」
もしも
僕だけの世界ならば そう
誰かを恨むことなんて
知らないで済んだのに
どうしても
どうしても
貴方の事が許せない
「僕だけの世界」ならば、純粋なまま生きていけたのに…。
現実ではそうはいかず、心の中に「恨み」が芽生えてしまったことへの葛藤が滲みます。
特に「貴方」が指す存在が大切だったからこそ、裏切りや失望の感情が強くなり、「許せない」という言葉にまで至っています。
2-2.裏切られても尚、信じたいと縋りつく
夜は ただ永い
人は 捨てきれない
見苦しいね
この期に及んで 尚
朝日に心動いてる
夜の時間が永く感じられるのは、苦しみや孤独のせいであって、自分の中にある淀みをただ見つめるだけの冗長な時間でしかないのでしょう。
にもかかわらず、「朝日」に心が動いてしまうという、人間の持つ希望や未練が描かれています。
「見苦しいね」という自嘲は、生きることを諦めつつある中でも、朝日のような束の間の希望に縋ろうとする自分の弱さや矛盾を受け止めきれない感情の現れです。
2-3.捨て切れない「白さ」
抱きしめてしまったら
もう最期
信じてしまった私の白さを憎むの
あなたを好きでいたあの日々が何よりも
大切で愛しくて痛くて惨め
誰かを深く愛し、信じたことによって傷ついてしまった自己への怒りと哀れみが描かれています。
「私の白さ」とは人を信じれる純粋さや無垢さを指し、それを裏切られたことで「憎む」感情が生まれています。
ただ、憎むのは「相手」ではなく「自分」であるところに、捨て切ることのできない白さを感じますよね。
孤独な夜に苛まれてもなお朝日に希望を抱いていたように、裏切られてもなお、人を信じたいと思う主人公の根っこにある健気さが伝わります。
しかし、裏切られた相手との時間が大切な記憶であればあるほど、それに対する喪失と裏切りの痛みはやはり深く、「惨め」と表現されるほどの心情に至っています。
2-4.過去への「執着」
もしも
あの頃、お日様を浴びた布団に
包まる健気な君が
そのままで居てくれれば
どれほど
どれほど良かったのか
もう知る由もない
ここは、過去の幸せな日常への懐古です。
優しさに満ちていた「君」が、何らかの変化(死、裏切り、別れなど)によってもう戻らないことが示唆されています。
「知る由もない」には、相手が「ただ居てくれる」ことさえもはや叶わない現実への絶望が込められています。
2-5.「あの頃の君」に会いたい
あぁ またお花を摘んで
手と手を合わせて
もうすぐ其方に往くからね
心に蛆が湧いても
まだ香りはしている
あの日の温もりを
醜く愛してる
死を連想させる「其方(そちら)」へ行く、つまり「君」の後を追う覚悟が語られています。
「蛆」は腐敗を象徴していて、自分が壊れていっても、過去の温もり=愛の記憶は消えずに残っているということ。
その愛の記憶を「醜く愛してる」という言葉は、後を追おうとするほどの執着が招く自己崩壊を切なく表現しています。
2-6.人の汚れを知ることで汚れていく自分
どうすればいい?
ただ、ともすれば もう
醜悪な汚染の一部
なら、どうすればいい?
いっそ忘れちゃえばいい?
そうだ 家に帰ってキスしよう
相手が自分を裏切ったこと、そして自分が相手を信じたことを許せず、心の淀みと向き合い続けてきました。
そこで人間の汚さに気づいてしまったこと、そして、気づいてしまった自分の汚さに気づいてしまったことによって、自分も「醜悪な汚染の一部」になってしまったと感じています。
「どうすればいい?」と汚れていく自分に戸惑いながらも、「家に帰ってキスしよう」と突然現れる日常的な行動への転換は、癒しや逃避、あるいはまだ残る愛を求める欲求を表しています。
2-7.自ら選んだ孤独を貫けない
どうすればいい?を
どうすればいい?
腐ってしまうこの身を
飾ってください
私のことだけは忘れないで
絶望の中でも、誰かの記憶に残ることを切に願っている様子。
「飾ってください」は、自分の死や終わりを美しく包んでほしいという願いでもあり、汚れていく自分の心を見たくないし、見られたくもないという気持ちが表れています。
裏切られたことで塞ぎ込み、自ら孤独に踏み入れた主人公でしたが、結局は自分の白さから来る他人を信じたいという気持ちは捨て切ることができません。
「忘れないでほしい」という執着がそれを表しています。
2-8.「死」という唯一の望みを迎え入れる
あぁ またお花を摘んで
手と手を合わせて
もうすぐ其方に往くからね
心に蛆が湧いても
まだ香りはしている
あの日の温もりを
醜く愛してる
5節の再登場であり、同様に「死の予感」「記憶への執着」「腐敗しても残る愛」が主題です。
繰り返されることで、「其方に往く=死への覚悟」がいよいよ現実味を帯びてきます。
また、サウンド的な観点で言えば、8〜9節の間では無限音階が使われていて、一音ずつ上がっていくんですよね。
これは「天国」に昇っていく様子を聴覚的にも表現していて、歌詞は同じでも5節の時とは全く違う聞こえ方がします。
2-9.あの頃の君への贖罪/執着
あぁ 天使の笑い声で
今日も生かされている
もうすぐ此方に来る頃ね
あの頃のままの君に
また出会えたとして
今度はちゃんと手を握るからね
最後に訪れるのは、幻想的な希望と再会への祈りです。
「天使の笑い声」は純粋さ、子ども時代、あるいは亡くなった存在の象徴かもしれません。
過去の失敗(手を握れなかった)を悔い、もし再会できたら今度こそ、という「贖罪」と「再生」の意志が読み取れます。
ようやくのことで天国に辿り着いたと思われる主人公ですが…。
アウトロのピアノは不自然なところでぶつ切りにされ、この曲は終わります。
まとめ
この曲の歌詞では、終始人間の歪みが突きつけられているようで、私自身は苦しくて聴くに堪えませんでした。
主人公がひたすらに「愛」と呼ぶものは、どちらかと言えば「見返り」を求める「執着」の方が適切だと思います。
主人公は裏切られた自分を憎んだように、最期まで自分を愛すことはできませんでした。
それは、自分では埋められない愛を他人に埋めるよう求めるように、死後の世界で理想化された「あの頃の君」と再会することを望んでいたことからも明らかです。
主人公を幸せにするのは、「あの頃の君」から与えられる愛ではなく、自分が自分に与えてあげられる愛なのかもしれません。
その域を出ないには、この先も「愛への執着」に囚われ、孤独に苛まれる「地獄」を味わうほかないでしょう。